書評No.005 自衛隊が定義する「戦略」を学べる『自衛隊元最高幹部が教える 経営学では学べない 戦略の本質』
近頃、ビジネスの世界で「戦略」という言葉が多く使われている。しかし、本書では、そもそも軍事で使用される「戦略」と比較して本質が見落とされていると指摘する。
・見落とし
1 「軍事戦略」を知らずに「戦略」は語れない
2 有事でも確実に戦略を実行する方法論がない
3 地政学・地経学的リスクへの感度が低い
4 日本人の「集合的無意識」を自覚していない
5 「戦力回復」で生産性を上げる視点がない
世界的には、MBAで戦歴から戦略を学ぶ様だが、戦争の話題に触れたがらない日本では、軍事戦略を学ぶ発想が無い。自衛隊が考える「戦略」を理解し、経営に活かす事は、グローバル社会を戦う上で重要だと気付からされる。
本書は概論書であり、軍事戦略をビジネス戦略へ活かす為の視野の広げ方や着目点を教えてくれるが、その分各論はあっさりと記されている。巻末の参考文献を読む事で、理解を深めたい。
◼︎気になった言葉
・MBAの戦略定義「企業あるいは事業の目的を達成するために、持続的な競争優位を確立すべく構造化されたアクション・プラン」
・ホフステッド指数:その国の文化と国民性を数値化したもの
→国民性をざっくり把握するのに便利かも
・戦略立案において重要なことの一つは、「相手を知る」ときに、自分がどのようなバイアスに捉われているのかを客観視すること。つまり現実を直視すること。
→もっとも堅固なバイアスは「集合的無意識」
・政策決定に参加する人数が少ないほど政策決定者自身の個人的な性癖、態度、信条、個人の政治的欲求が反映される傾向が多くなる(『国益と安全保障』)
・ケネディーの意思決定プロセス(キューバ危機)『決断の本質』
①特別対策チームの活用
②会議中は、通常の手続きに関する規則や序列を忘れさせる
③各自に所轄部門の代弁者として議論に参加させない
④特別対策チーム以外のメンバーを議論にときどき招き、偏見のない情報・分析を得る
⑤メンバーを小グループに分け、二つの行動方針を作成させ、両者で議論
⑥腹心に意思決定プロセスでの「悪魔の代弁者」の役割を与え、わざと嫌われ者を作る
⑦あえて数回の会議を欠席→出席者の率直な意見を引き出す為
⑧グループ毎に提案を提出させ、その中から選択する責任を自ら引き受ける
・総司令官は、重大な作成用務もさることながら、前線の部隊の「感情」に絶えず触れなくてはならない。
・組織は戦略に従う→まず戦略ありき
・戦争もビジネスも一回の戦いで勝敗が決まるものではないので、時に不利な戦局の中から、効果的な戦略を新たに生み出せる組織こそが最終的な勝利を手にできます。
・軍事戦略・作戦を立てる時に自衛隊がまず行うのは「情報見積もり」
→「相手を知る」とは、相手の「能力」と「意志」を見極める事
・「甘え」という表現は日本特有。世界的に見ると、甘えに対応する明確な言葉はない。『「甘え」の構造』